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1916年1月 アンリ・ギルボーが「ドゥマン」誌を創刊


評論家アンリ・ギルボーが創刊した「ドゥマン(明日)」誌は平均60㌻程度の週刊で、刊行期間は1916年1月から1918年10月まで。11・12号、28・29号は合冊で、合計28冊30号が発行された。ツヴァイクは「唯一の真のヨーロッパ的な雑誌だった」と述懐している。

※ツヴァイク著/大久保和郎訳『情熱の人ロマン・ロラン』角川文庫 P292)

同誌はロマン・ロランを中心にゴーリキーやツヴァイクなどが寄稿し、レーニンやルナチャルスキーなどの訳文を掲載した。当時フランスにいた小牧近江が全巻を日本に持ち帰り、雑誌「種蒔く人」の手本としたことでも知られる。創刊号の目次は次の通り。

アンリ・ギルボー「さて、明日は?」
オーギュスト・フォレル「明日の諸問題」
ロマン・ロラン「永遠のアンティゴネー」
トルストイ「平和に関する未発表書簡」
エスレ・スイグウィク「クレド」
H・M・スワンウィック「婦人と戦争」

ロランの「永遠のアンティゴネー」は1915年5月、ロンドンの「ユス・スフラジイ」誌に掲載されたものを転載した。

アンティゴネーはギリシア神話中の女性。オイディプス王の娘で、憎しみのためではなく、愛のためにつくられた魂として、愛の象徴とされている。以下、みすず書房『ロマン・ロラン全集』収録の翻訳から。


われわれのすべて、男性にも女性にも可能なもっとも有効な行動とは、人から人へ、魂から魂への個人的な行動、ことばによる、範例による、全存在による行動です。このような行動を、ヨーロッパの女性たちよ、あなたがたはじゅうぶん実行してはおられません。今日あなたがたは、世界を喰い滅ぼしている災禍をはばもうとし、戦争に反対しようと努めておられる。それはけっこうです、しかしあまりに遅すぎます。あなたがたは、戦争が勃発するまえに、男たちの心のなかでこの戦争に反対することができたし、そうしなければならなかったのです。あなたがたは、われわれに及ぼすあなたがたの力を、じゅうぶん知ってはおられません。母親、姉妹、妻、女友だち、恋人たちよ、あなたがたが望みさえすれば、男性の魂をつくりあげるのはあなたがた次第なのです(中略)

かかる擾乱のなかで、わたしが人間的友愛へのかわらない信仰や、愛に対する愛や、憎しみに対する侮蔑を保持しえたのは、何人かの女性たちの功績なのです。そのうち二人だけにかぎって名をあげれば、――幼年時代からわたしに永遠への目を開いてくれた、キリスト教徒の母と、――その清澄な老境がわたしの青年時代の友であった、純粋な理想主義者、偉大なヨーロッパ人、マルヴィーダ・フォン・マイゼンブークです。もし一人の女性が一人の男性の魂を救いうるなら、あなたがたすべてが男たちを救わないわけがあるでしょうか?(中略)

まず、あなたがたのうちに平和をつくりだしてください! あなたがたから盲目的な闘争精神を引き抜いてください。あなたがたは、戦闘に加わらないように。戦争をなくするのは、戦争に対して戦争をすることによってではなく、あなたがたの心を戦争から守り、あなたがたのうちにある未来を火災から救うことによってです。戦い合っている人たちが交わすすべての憎しみのことばに対して、全犠牲者への慈悲と愛情の行動をもってお答えください(中略)

その明敏な憐れみぶかいまなざしが、われわれに自分の不条理について顔を赤らめさせるような証人になってください! 戦争のさなかにおいて生きた平和となってください、――アンティゴネーよ、憎しみを拒絶し、兄弟たちが苦しんでいるとき、敵対し合う兄弟たちにもはや区別をつけようとはしない、永遠のアンティゴネーよ。

(みすず書房『ロマン・ロラン全集【18】』所収「先駆者たち」山口三夫訳 P133~135)



「ドゥマン」創刊号