ロマン・ロランの生涯  トップページへ

1866年、冬の寒さの中に放置される
 みすず書房『ロマン・ロラン全集【17】』所収「内面の旅路」片山敏彦訳 P290
憩いを知らぬ生活の疲労と試練とをしゃにむに凌ぐ強健な代々の家系に生まれながら、私は、幼児の一つの出来事のつらい結果を生涯になうことになった。というのは、私がまだ満一歳に充たなかったとき、若い女中が不注意にも冬の寒さの中に私を置きっ放しにして忘れていたため、私はもう少しで死ぬところであり、このことが私の一生涯に、気管支炎と呼吸困難との弱点を残した。私の書くものの中には、砕かれる飛躍みたいに次のような言葉が、思わず繰り返して出て来るのを人は見るだろう――「呼吸の」(respiratoires)――「息苦しさ」(ètouffement)――「開かれた窓」(fenêtresouvertes)――「自由な大気」(air libre)――「半神たちの息吹き」(souffle des héros)――羽ばたく鳥、あるいは、傷ついた胸の籠の中に熱を病んで身をくぐませている鳥。

最後に、強い徹底的な、精神的(モラール)な印象。死についての思想、それが私の生涯の最初の十年間を包んでいた。――死が私の家庭の環の中へ入り込んだ。死は私の傍で、私の幼い妹を打ちたおした(中略)

十歳か十二歳頃まで、自分の生命が死におびやかされているという考えにとらわれていた。たびたびの充血、気管支炎、咽喉の病気、止めにくい鼻血、それらの病気が私の生の勇躍をくじいた。そして自分の小さな寝床の中で私は繰り返していた――

「私は死ぬのはいやだ!」と。